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面河村誌

(一) 夜 這

 夜這とは、男子が女子のもとへ、夜忍んで行くことである。当地方では、大正時代まで、この風習があった。現在のように、若き男女の自由な交際はほとんどなく、青年会も男子のみの組織でその交流はなかった。夜這は男子の女子狩り、年ごろの娘を持つ親もやぼはいわず、半ば公認でさえあった。
 これと思う娘の家へ、夜そっと忍びこみ、くらやみの中の男女はあるいは結ばれ、あるいは片思いの恋に終わり、ふられて帰ることも、しばしばであった。
 しかし、それは必ずしも結婚の前提とはならず、今でいう、プレイボーイの遊びに、あとで泣く娘もあった。
 部落には必ず若い士宿があり、そこを根城にして、夜道の四、五キロもなんのその、目星をつけた娘のもとへ、堤灯を頼りに、山坂を越えてでも通うのである。思うて通えば、千里も一里とか。
 村芝居の夜、岩屋寺の節分お通夜などは、若い男女の今でいう社交の場でもあり、見初め、会い初め、思い初め、やがて、それが「硯引き寄せ、墨すりながら」に始まる文(恋文)のやりとり、そして愛を確かめあう夜這となるのである。
 常日ごろ、なんの娯楽もなく、夜をもて余した若者のエネルギーのはけロ、じっと待つ女子も、意中の人の夜這に、胸をときめかし、夜を語り明かしたかも知れぬ。
 その冒険と期待、知る人ぞ知る一つのロマンである。そして、この夜這を許した当時の社会もまた愛すべきものがある。今のように、教養とか、知性とかに律せらることなく、自由奔放、一見ばかばかしささえうかがえるその風土は、また、なんとなくほほえましいものがある。