データベース『えひめの記憶』

えひめの記憶 キーワード検索

柳谷村誌

第五節 水力発電

 豊かな降水量、広い水源涵養林地、大きい標高差、これらを総合したわが村の自然は、水力発電の魅力を漂わせている。急ピッチの工業化を支えるわが国の電力需要は、コストの低い水力発電へ企業意欲をかき立てた。明治の末期、企業の視点は黒川の渓流に魅せられ、伊予水力電気株式会社(その後伊予鉄道電気株式会社、そして今日、四国電力株式会社)から、村当局はじめ、該当地域に対して、熱っぽい接衝が続けられたのである。
 その一 明治四二(一九〇九)年七月二一日、柳井川川前組会協議録
  明治四二年七月二一日川前組会ヲ大師堂ニ開会ス出席者藤坂利太郎
  其他各人出席ス 第一号議案トシテ組長ハロ頭ニテ伊予水力電気株
  式会社ガ当組黒川水力ヲ利川シ其他同会社ガ施設ニ関シ利害有無ヲ
  説明シタリ 各員満場一致シテ陣害ナキヲ以テ該事業ニ対シ可及的
  ノ便利ヲ与フルコトヲ決ス 右正当ナルヲ証スルタメ左ニ署名捺印
  シ後日ノ証トナスモノナリ 明治四二年七月二一日組長藤坂利太郎
  署名人永井力弥同高岸林太郎同兼井兼太郎
 その二 明治四二年八月、柳井川川前組会協議録
  明治四二年八月川前組会ヲ大師堂ニ開会ス出席者組長藤坂利太郎外
  一九名出席欠席者全員委任状提出 協議録(抄録)第一号協議案 
  水力電気起工ニ付賛否ノ件―原案通リ満場異議ナク起工ニ賛成ヲ決
  ス 第二号協議案ー用地価格ノ件 黒川上田畝ニツキ五〇円トチノ
  ギゼ田上田三五円畑上皆反ニツキ九〇円ニ可決ス 第三号協議案―
  道路開サク引受ノ件引受ヲナスコトニ決ス但シコノ場合ハエ事予算
  書ニ付更ニ各自承諾書ヲ差シ入レタコト 右協議題顛末ヲ記録シソ
  ノ正当ヲ証スルタメ署名捺印スルモノナリ 明治四二年八月二一日
  組長藤坂利太郎組中代表者高橋源次外七名
 その三 明治四二年旧暦七月一二日地主各人契約証書
  今回伊予水力電気株式会社ガ上浮穴郡柳谷村大字柳井川黒川ノ流水
  ヲ利用シ水力電気ノ事業ヲ経営スルニ付其用地ヲ上畑畝ニツキ一三
  円五〇銭中畑畝ニツキ一二円五〇銭下畑畝ニツキ九円五〇銭ニテ同
  会社ニ売買スルニ付地主ニ於テ共同シテ利益ヲ得テ其利益ニ対シテ
  ハ均等主義トシ公平ニ処理スルタメ左記ノ事項ヲ約束スルモノナリ
  一、下地ニ対シテハ売払金額ノニ割ヲ取ル各地主ニ於テ承諾ナシ其
  二割ヲ次項ノモノニ充当シテ利益ヲ均等ニスルニアリ 一、上地ニ
  対シテ売払金額ノ普通(普通トハ会社へ売渡価格)ニ達スル迄補助
  スルコト 但シ用地全部ニ対シテ会社へ引波ス迄ノ凡テノ実費ヲ補
  助スルコト 一、若シ前項デ不足ノ場合ハ用地全部ニ対シテ反別割
  トシテ支出スルコト 右ノ通リ各人合意ノ上此ノ約定ヲ締結シ左ニ
  署名捺印ス、但シ本契約書ハ保存方藤田松次氏ニ依頼ス 明治四二
  年七月一二日片山音五郎外一八人
 その四 明治四二年七月二三日、柳谷村会(村長鶴井浅次郎村会構成
    小栗久太郎ほか一〇名)
    伊予水力電気株式会社 黒川水利使用ニ関シ願出ノ件
  伊予水力電気株式会社ノ出願ニ係ル電気開作ノタメ本村ヲ貫流スル
  黒川沿岸ニ工作物ヲ施設シ同川ノ水利使用ニ関スル利害有無ノ件―
  満場一致障害なきものと認定
 その五 明治四二年九月二二日、柳谷村会(同前)上提
     伊予水力電気株式会社ガ落出ヨリ発電所ニ至ル新道ニ関スル
     件
  会社と協定することに議決
     伊予水力電気株式会社 向ウ一五箇年間毎年四五〇円ヲ柳谷
     村ニ寄附シ其間ノ水車税免除ノ件 
  議決
     会社ヨリ受ケタル寄附ノ使途ニ関スル件 
  議決
     会社ハ水面使用並ニ河川引水工作物認可取得ノ際一五〇〇円
     ヲ寄附シ村ハ発電所近クニ村役場ヲ設置スルノ件  
  議決
 こうした村行政当局・組中・地主などと、会社との緒接衝と手続きは、きわめて円満順調に運び、諸施設工事の進みも捗って、明治四四(一九一一)年八月、黒川第一水力発電所はみごとに完工して、操業開始に至ったのである。
小坂卯太郎の備忘録に、
  見たか聞いたか四国で一ちの  空前絶後の大工事
    二本の鉄管吊り下げて
       回わすタービンゼネレータ  行く先きや松山変電所
 当時の村人の喜びと、驚きとを偲ばせる逸作である。かくて文明開花の足どりは速く、企業の志向は、第二・第三黒川水力発電所の建設へと、馳せてゆく。
 その一 大正六(一九一七)年二月二六日、柳谷村会(村長鶴井菊太
    郎、村会構成室木嘉吉ほか一〇名)上提。
     伊予鉄道電気株式会社ガ木村黒川へ第二発電用工作物増設変
     更出願ニ付 同川ノ沿岸ニ増設スル水路工作物及ビ発電水力
     利用ニ関スル利害有無議決ノ件
  満場一致障害なしと議浹
 その二 大正七(一九一八)年七月八日、永野組会協議録
  大正七年七月八日、永野組会堂ニ於テ伊予鉄電会社ガ第二号水力電
  気工事ヲ経営セントスルニ当リ関係部落ノ集会ヲ求メ協議会ヲ開催
  ス 出席者鉾石武吉兼井兼太郎藤坂利太郎右三名ノモノハ該会社ヨ
  リノ依頼ニ依リ出席ス 永野組長目戸初太郎其他部落一同 協議事
  項一、伊予鉄電会社ガ水電工事経営スルニ当リ測量及其他事業進行
  ニ付テ竹木及雑草等其他進行ニ障害アルモノハ切除ケニ際シ且又会
  社トノ関係等ニ付テ藤坂利太郎ヲ以テ懇切ニ説明ヲナシタリ 右ニ
  対シ満場一致ヲ以テ測量及ビ其他事業進行上ニ必要ナル木竹其他ノ
  取除ケヲ異議ナク承諾ス 但シ取除ケ物ニ対スル損害ノ補償ハ全測
  量終了後ニ於テ関係部落ヨリモ損害見積リノ責任者ヲ定メ会社卜共
  ニ鑑定ノ上其額ヲ定メ相当ノ補償ヲ受クル事ト決ス 右協議ノ正当
  ヲ証スルタメ左記捺印ス 大正七年七月八日 鉾石武吉外一一名
 その三 大正九(一九二〇)年六月一三日、柳谷村会(村長代理助役
    藤田順吉、村会構成岡田清次郎ほか一一名)上提。
     伊予鉄道電気株式会社出願ニ係ル当各川敷継続使用ノ利害ノ
     有無議決ノ件
  満場一致障害なしと議決
 こうした折衝と手続は円満順調に進み、工事も亦技術進歩の恵沢を浴びて、前期の出来栄えを超すみごとな完工を見、黒川第二発電所は大正一一(一九二二)年三月に、つづいて黒川第三発電所は、大正一二(一九二三)年六月に操業開始となる。
 技術の進歩は、落差から水量へと視点を一転させ、本流仁淀川の河水使用を構想させるに至った。
 その一 昭和二(一九二七)年五月二五日、柳谷村会(村長藤田順吉、
     村会構成大下伊勢太郎ほか一一名。)
     伊予鉄道電気株式会社ヨリ発電原動カトシテ出願二係ル仁淀
     川水系面河川河水ヲ使用スル場合公益上利害ノ有無ニ関スル
     件
  支障なしと答申
 その二 昭和一〇(一九三五)年一月二二日、柳谷村会(村長永井元
     栄、村会構成岡田嘉一郎ほか一一名)上提。
     伊予鉄道電気株式会社ヨリ川願ノ面河第三発電所水利使用ニ
     ツキ公益上支障有無ニ関スル件
  支障なしと議決
 その三 昭和一二(一九三七)年七月一四日、柳谷村会(村長高岸勝
     繁、村会構成同前)知事諮問提案
     面河発電所建設ニ関シ面河川支流夜鳴川河水引用ニ付公益上
     支障ノ有無ヲ知事ニ答申スルノ件
  支障なしと知事に答申の旨決定
 水路工事技術が隨道方式に一本化し、面河第一発電所の放水を直ちに隧道に導き、面河第二発電所へ、更に黒川の全水量と面河川の全水量を、龍宮から隧道に導いて、面河第三発電所へ作動させた。こうして面河第三発電所(昭和一二年一二月)面河第二発電所(昭和一五年四月)操業開始する。
 隧道工事技術の進歩は、相隔った多くの谷川を隧道で連結して、水量の加増を図った。黒川水系では、本谷川合流点の全水量使用は、下流域で開発済みである。同地点から上流域の水量使用の効率をあげるには、小河川の連結集水と、落差強化によって実現する。この技術着想が、黒川第五発電所(昭和二六年六月完工して操業開始)の出現となり、更にその放水を再使用する小村発電所(昭和一八年五月竣工操業中)との提携ともなった。
 黒川水系・仁淀川本流水系の水力電源開発は、従来の開発技術においては、ほとんど限度に近い。しかしながら、技術の進みには停滞がない。水路式導水から貯水式圧力への転換は、水力電気開発の大いなる革新といえよう。最近に至り四国電力は中津旭地区に、新面河第三発電所を企画・施工・ほとんど竣成の域に達している。構造は重力式コンクリートダムによるもので、既設の面河第三発電所の発展的改造とも言うべきものであろう。
 以上、明治末期から今日迄七十有余年開発され来った、本村内の水力発電開発のあとを一覧表にしてみる(図表 柳谷村における水力発電開発 参照)。
 水力は、太陽熱・地熱・風力などと同じく枯渇することのない悠久のエネルギー源とも考えられる。これらの開発の未来には、大いなる期待と幸福を抱いてよいであろう。大きい谷密度に恵まれたわが村は、今後、中型・小型の電源開発の花つぼみもふくらんでいる。開花は我々がいだく開発の情熱にかかる。わが村は、明治末期から電源開発の情熱を燃やしつづけた。この情熱の炎を絶やすことがあってはならない。時流に立った組織立てと実践が求められる。村長部局と村議会は、軌を一にしてその体制を整えた。昭和五六(一九八一)年六月二九日村議会は、電源開発対策特別委員会の設置を議決した。村長部局においては、昭和五六年三月二七日制定、同四月一日適用をもって電源開発対策本部規程を施行した。今後両機関は、本村における電源開発対策の総合企画調整と、同対策事業の円滑な推進を所掌目的として、村の電源開発の新しい夜開けに向って、巨歩を踏み出しているのである。

柳谷村における水力発電開発

柳谷村における水力発電開発