データベース『えひめの記憶』
身近な「地域のたからもの」発見-県民のための地域学入門-(平成22年度)
1 「小・中学生のふるさと学習作品展」から
愛媛県が平成15年度から実施している「小・中学生のふるさと学習作品展」事業は、県内の小学生や中学生を対象に、愛媛にゆかりの深い人物に関するレポートや壁新聞の募集を行い、優れた作品を表彰するとともに、東予・中予・南予の博物館等で巡回展示し、県民の皆さんに見ていただくものです。
平成22年度は、小学校・中学校あわせて64校から、2,991点の作品の応募があり、審査の結果、特別賞に28点、優秀賞に62点、努力賞に183点の作品が選ばれました。作品名の中には、「川の名になった足立重信(あだちしげのぶ)」や「日本の近代産業を育成した広瀬宰平(ひろせさいへい)と別子(べっし)銅山」などが見られ、どの作品も、身近な地域や産業、文化等の分野で貢献したり活躍したりした人物について書かれています。
そして、作品からは、子どもたちが調査研究を行う中で、人物に関すること以外にも気づき学んだものがあることを読み取ることができます。その、気づき学んだもの、言い換えれば、子どもたちが見つけたものについて、レポート部門で愛媛県知事賞を受賞した作品、「祈りの詩人坂村真民(さかむらしんみん)」(松山市立湯山中学校2年 豊田はなのさん)を紹介しながらまとめてみます。
「祈りの詩人坂村真民」は大きく二つの内容に分けられており、第一部が「真民を知る」(ページ数38P)、第二部が「真民の足跡をたどる」(ページ数47P)と題され、それぞれ1冊ずつのスケッチブックにまとめられています。
第一部を開くと、「はじめに」の中で、「なぜ今、坂村真民か?」の見出しで、坂村真民の詩が「教科書などにも載っているほどだとは知っていた」ものの、「真民がどんな人か、どんな作品を残したのか興味を持った」、と調査研究を行った動機が書かれています。そして、「真民の何を調べるか」「それをどのように調べるか」と続き、次のような調査内容・項目と調査方法が示されています。
〇 調査内容・項目
・どんな人なのか
・どんな経歴か
・どんな作品を残したか
・人々や社会にどんな影響を与えたか
・愛媛との関わりは
・真民に関わる最近の動きは
〇 調査方法
・文献、ホームページでの調査
・真民を知る関係者に聞く
・真民に関わる事業に携わる方に聞く
・真民ゆかりの地を訪ねる
・関係する催しなどに参加する
このように、調べたい内容や項目を明確にして、本を読んだりインターネットを利用したりして調べるだけでなく、つながりの深い人への聞き取り調査やゆかりのある場所に出向いての現地調査を丹念に行うことで、人物像が多面的にとらえられています。では、この作品のあらましを紹介します。
第一部では、「はじめに」の後に「真民関係年表」が示され、ついで、「真民の伝記が一冊の本にまとめられているものはなかった」ことから、「真民が過ごした、あるいは、活躍した土地ごとに、真民の活動や功績を伝記にまとめてみようと思った」として、「生誕(0~5歳)-虚弱な子どもー」から「愛媛・砥部時代Ⅲ(89歳~97歳)-晩年の活躍ー」まで、地名をつけた時代区分の見出しに、その時期の坂村真民の境遇や活動に関する短い副題がつけられた伝記が書かれています。
続く「真民の作品・受賞歴」の項目では、「私の好きな真民の詩」と「私の好きな真民の言葉」が理由とともに挙げられ、訪ね歩いた写真を用いて「詩碑」が紹介され、「主な受賞歴」がまとめられています。
第二部では、調査の過程で偶然に坂村真民の家族の一人を知り、坂村真民についての話を聞きに行ったことが書かれています。第二部は、ほぼ全編にわたって、そのような、関係者が知る坂村真民の姿や人柄を関係者本人から聞き取ったり、坂村真民にゆかりの深い場所を訪ねたりしてわかったことや感じられたことがまとめられています。
例えば、坂村真民の家族の人から、「朝3時30分には毎日、重信川に行って、河原の砂地に額をつけるなどしてお祈りをし、額についた砂もためていましたよ。詩も自分の世界に入り、一人きりになってつくっていました。」と話してもらったことや、「真民先生のお祈りコース」を案内してもらったことが書かれています。
また、坂村真民が店の名前を名付け、講話の場所としても使われたという店の従業員に、ゆかりの品々を見せてもらったり、砥部町役場で、町長や「坂村真民記念館」の建設準備担当者から、坂村真民の詩と業績を後世に伝えるための取り組みを説明してもらったりしたことが紹介されています。
さらに、砥部町長から坂村真民と深い交流のあった寺を教えてもらうと、その寺を訪ね、交流が始まった経緯などを教えてもらったことや、坂村真民の生涯を描いたミュージカルを観劇し、坂村真民の家族から紹介された脚本家や坂村真民を演じた役者に会い、「ミュージカルに寄せる思い」や「真民先生に対する印象」などを話してもらったことが書かれています。
このような「足跡をたどる」調査研究の結果、「坂村真民の功績」が五つ挙げられ、続く「研究を終えて」の項目で、「研究を通して考えたこと、感じたこと」として、「真民先生の生き方」、「真民先生の詩」、「真民先生の考え方」の三つに関することがまとめられています。
そして、「研究を通して考えたこと、感じたこと」の最後に、「たくさんの方々」が「たくさんのことを教えてくださった。」と記され、作品の他の部分でも、坂村真民の関係者に次々と会えた成り行きに、「私も、めぐりあいのふしぎに手をあわせました。」と書かれています。これらのことからもうかがえるように、自分の足で歩き、様々な人の話を聞き取り、ゆかりの場所や物を見たり触ったりしながら調査研究を進めたことで、坂村真民の人物像を多面的にとらえることができたことに作者が気づき、そのような、聞いたり見たりすることのおもしろさや大切さを学び取っていることが、作品全体からうかがえます。