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わがふるさとと愛媛学Ⅱ ~平成6年度 愛媛学セミナー集録~

◇和紙の楽しみ方

 一ロに和紙と言っても、様々な楽しみ方があります。インテリアになさったり、アートのほうでは、油絵に勝るとも劣らない素晴らしい作品をちぎり絵で表現されている方々など、いろいろいます。私の場合は、生活の中にいろいろ和紙を取り込んで楽しんでいます。皆様も、もっと気軽に、毎日の生活の中に和紙を取り入れると楽しいんじゃないかなと思いますので、今日は皆様へのアイデアの提案ということで、お話を進めさせていただきます。
 私は、お正月に手紙を書くんです。12月に入ってすぐとか年末とかにおめでとうと書くのは、心の抵抗がございまして、いわゆる年賀状は出しておりません。そのかわり、お正月の元且に、自分の好きな方々にお手紙として書くんです。このお手紙に和紙を使うんです。
 経験された方はわかっていただけると思うんですが、実はどんな紙をちぎった時よりも、和紙をちぎった時というのは、すごく気分がいいんです。会場にいらっしゃる皆様も経験はあると思うんですが、普通の紙と比べて、和紙をちぎるというのは、どう言えばいいんでしょう、フワッとちぎれて、ちぎり目が毛羽立つんです。この、ものすごく繊細な毛羽立ち方がすごく好きなんです。
 手漉きの和紙の製造工程は、御承知の通り、材料を作るのにほぼ1年がかりで皮をむいて、さらして、さらして、それから刻んで、繊維を粉々にほぐしてと、非常に手間がかかるんですね。そうやって人間が手を入れて、手を入れて、本当に一生懸命作ったものが、自分の手元にあるというその感覚。すごく贅沢(ぜいたく)だなと思うんです。そして、それをちぎって、その一生懸命ほぐした繊維がフワッと見える時、「本当に、和紙って生きているな、生き物なんだな。」と感じるのがうれしくて、たぶん和紙にこだわっているんだろうと思います。
 それで、なんでもない白い封筒を買ってきて、それに和紙をちぎって貼ります。今年は、黒と赤の和紙を探してきました。小さな梅模様が入っており、所々には金箔も小さく散っていました。それを2枚、好きな形にちぎりまして、その封筒の隅に二つ、並んで貼ったり、重ねて貼ったり、いろんなことをして、宛て名書きをします。中のほうは、やはり白い何でもない紙に、扇形の模様とか、帯をしめたような着物の模様とか、いろんな模様に和紙をちぎって貼って、自分のあいさつをプラスして、お手紙を作ります。
 いつも50から60通作るんですが、この作業は非常に時間がかかりまして、だいたい元旦から二日の昼過ぎまでかかります。ですからポストに投函するのが二日の夜ということになりますが、それが私のお正月の行事ということになります。お正月ぐらいはお休みですから、自分のそれまで御無沙汰している大事な方々に、そうやって自分も一生懸命になって、何かを出したいなというので、これは10年以上続いています。
 和紙はけっこうお値段が高いので、私のお小遣いではなかなか手に入れられないんですが、和紙を扱っているところへ行くと、切り屑みたいなのをたくさん袋に入れて、お徳用としてたいてい置いてありますので、そういうものを買ってきたり、ちぎったかけらも、どこかでそれをペッと貼ることができますので、無駄にしないで大事に大事に持っております。今では段ボール2箱に、いろんな和紙が、ぎっしり詰まっています。
 それと最近、子供と一緒に遊んでみたのが、書道の半紙なんです。これを三角に折ったり、四角に折ったり、細かく折り畳みまして、その角々にカラーインクや絵の具をとかしたものなどをチョッチョッとつけていきます。これを開きますと、きれいな模様ができあがります。また、和紙の世界では「墨流し」と言うんだと思うんですが、マーブル紙といって、水の上に特殊インクを流してかき混ぜた時に面白い模様ができますので、それをサッと紙に取ります。あとでアイロンをかけて、お正月の挨拶文に使ったり、涼しい色は暑中見舞いに使ったりしています。藍染の和紙を手に入れた時は、それを四角い厚紙に貼って、夏場にコースターとして使っています。和紙は非常に強いですから、お水がたれてふくらんでも、またそれをそっと乾かすと元に戻るんです。もう5、6年使っていますが、非常に色が涼しくて、お客様に出しても好評です。藍染の和紙の裏にただ厚紙を貼っただけなんですが、けっこうそれで雰囲気が出ていると思うんです。
 木箱とかちょっと厚手の紙箱をいただくと、いたずら心がむずむずと起きまして、やはり和紙をちぎってぺ夕ぺ夕貼っていくんです。ただそれだけの作業なんですが、木箱がすごく優しくなります。木箱だけで蓋をするとパタンと閉まるところが、和紙をペタペタ貼るだけで、フワッと閉まるんです。中の空気まで優しくなるような気がします。こんな箱を一杯作っておいて、印鑑入れにしてみたり、お友達からいただいたお手紙をその中に納めたりしています。また、紅茶の缶にも和紙を貼っております。蓋の部分の丸い所に和紙を貼ると非常に可愛い表情が出て、小物入れにしてみたり、ビー玉入れにしたり、おはじきを入れたり、いろんなことをして遊んでおります。ということで、随分と生活の中に和紙が入ってきています。
 和紙は、ちぎっていくと本当にいろんな表情が出るんですが、よくやる失敗で、のりをつけるとせっかくの毛羽立ちが消えてしまうんです。固まったり、毛羽立ちを折り込んでしまったりするんです。私は、デザインの仕事をしている関係でスプレーのりを時々使うんですが、それで和紙を貼りますと、毛羽立ちがそのままの状態で見事に残りますし、手軽に貼ることができます。失敗したなと思っても、貼ってすぐだと簡単にはがすこともできます。こうすると、いろんなものにどんどん貼っていけます。
 5、6年前ですが、ガラスのアクセサリーの教室を開いておりました時に、その生徒さんから、「娘が結婚するのだが、何かいいアイデアはないか。」と、尋ねられました。そのお母さんは、娘さんの成績表とか、作文とか、写真もずいぶんたくさん蓄えておられたので、手作りの生い立ち記を作ったらというアイデアを思い付きました。表紙には、和紙の形で貼り込み、中のページには、和紙をちぎった上にタイトルカードを置いて、いつ書いた作文だとかいうこと書き込みました。4、5日通って来られ、毎晩3、4時間ずつかけて完成させ、娘さんに持たせて嫁がせたそうです。
 だから本当に、少しの遊び心さえあれば、和紙というのは、簡単に生活の中に入ってきてくれます。
 手ごろな大きさの和紙がありますと、ランチョンマットの代わりに敷きます。汚れてもすぐ取り替えられるし、吸湿性がいいですし、並べていて思うんですけれども、どんな食器でも、けっこう豪華に見えます。おうちにお客さんが見えた時に、日常使いの食器でお出しするしかない時に、一つ和紙を下に敷くだけで、ちょっと料亭風とか言って喜んでいるんですけれども、そういったことで楽しめます。その隅にも、やはりちぎって貼るということで、またその紙が生きてきますし、全部お食事が終わったあと、その紙の上に紅茶とかコーヒーをお出しすると、また雰囲気が変わって、非常に和紙というのは、楽しめる範囲が多いなというのは感じています。
 また、ラッピング素材としても和紙を利用しています。皆さんも最近、ラッピングという言葉をよくお聞きになると思うんですが、包むという行為そのものを大事にして、ラッピングの素材そのものにもこだわるケースが多いようです。洋紙の場合は、失敗すると新しい紙をもう1枚と使わなければいけないんですが、和紙の場合は、くしゃくしゃになっても、そのヒダとかシワにも味がありますので、雰囲気があるんです。ですから、そのまま包みにくいお酒なんかも、私は和紙で包んでプレゼントにしております。
 お店で買物をする時は、私はその場で、「包装紙はいらないよ。」と言うようにしていますし、もし包んでくれた場合には、家へ帰ってから外して、品物を確かめる意味合いもあって、必ず自分で包み直しています。その時も、やはり和紙にくるんでお出ししております。そんな感じで、本当に気軽に生活の中で楽しめばいいんじゃないかなと思います。