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愛媛県史 社会経済1 農林水産(昭和61年1月31日発行)

第八節 中世末~近世初期の農業


 農業技術について

 農業技術に関する記述で特に目立つのは、肥料とともに作物の品種・播種期・栽植の適地に関するものが著しく多いことである。『親民鑑月集』は三章の「五穀雑穀其外物作分号類の事」で作物ごとに品種を掲げ、各品種の特性、栽培の時期、栽培上の留意事項を略記したあと、続く四章の「土の上中下三段并九段付一八段の事」では、土壌を三段、九段、一八段に分類して各土壌の特性を解説し、その見分け方、土質の改良法、各土壌の適作物、施肥上の留意事項などを詳しく説いている。
 上の品種中には厳格な意味では品種と言えないものも含まれているが、それにしても穀類だけで一四八品種を教え、豆類も五〇品種を超えている。一〇〇に余る近世の農書で、作物の品種をこれほど詳細に列記しているものは他に例がない。稲を例にとってみても、近世農業の教科書として知られている『農業全書』(元禄一〇年一六九七)でも、品種については早中晩を区別しているだけで具体的には記述がなく、『耕稼春秋』(宝永四年一七〇七)も八二品種にとどまり、品種の数では抜群の農書と言える『私家農業談』(寛政元年一七八九)さえ、稲八三品種、大麦九、小麦四、稗九、小豆九、粟一〇、黍八品種でいずれも『親民鑑月集』より少ない。
 品種とともに重視しているのは播種の適期で、冬作物ならびにそれぞれの品種ごとに最も収量の多い播種の時期を細かく解説し、麦のごときは二四品種の播種適期を品種ごとに説いている。
 そのほか播種期の適否と成育の良否、播種量、害虫との関係など、播種期を中心とした栽培上の注意事項を随所で述べているが、播種の時期にとどまらず、作物によっては、さらに細かく播種、定植の時刻にまで及び、豌豆・高野豆の播種は「遅きは夏の日にあたりて痛故、早く蒔て吉」とし茄子については「苗を馬に付よとて、真昼九つ時に植よとせ」と、最も適した時刻まで説いている。
 品種、播種期ほど詳細ではないが、栽培する土地の選択についても麦は「音地よし疑路の類は悪しく、真土も音地よりは劣る。子細は麦くさる時知る。扱又、春中と夏初の早痛故、取分音地よし」とし、小豆については「何も上畑には出来過ぎして悪しく、高麗小豆は上々畑に猶吉。其外は砂地、真土吉。疑路は不宜」と説き、作物ごとに栽培の適不適地、土地の肥痩と収量、品質との関係などについて述べ、土地を品種、播種期と並ぶ要素として重視している。
 以上は『親民鑑月集』の農業技術に関する記述の中の、最も特徴的な部分の要約であるが、見られるとおりその対象は、(一)品種 (二)栽植の適期 (三)栽培の適地 (四)肥料 の四者に集中している。中世から近世初期までの農業は、最も進歩していた米麦作も含めて、この四要素に立脚していたと見ることが出来る。




表1-6 主要農作物の品種数

表1-6 主要農作物の品種数


表1-7 土壌の分類

表1-7 土壌の分類