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愛媛県史 社会経済1 農林水産(昭和61年1月31日発行)

第七節 その他の作物と栽培技術


 米麦以外の作物

 米麦以外の作物については各論がなく、二九種類の作物を掲げ、種苗、肥料(種類・施肥量・施肥期・施肥方法など)その他について栽培上の留意事項を断片的に述べているだけである。したがって、作物ごとに播種から収穫までの一貫した栽培技術の実態を解明することは出来ないが、その断片的な記述を項目別に整理すると次のようになる。

一、種苗に関するもの

1 選種
○生姜       種株は充実したものでないと、夏秋の日照時に生
           育が遅延する
○葱        苗は調理時の廃物(白根)を利用する 肥沃畑であ
           れば定植後二〇日で成長する
○冬苺       古根を植えるのがよく、実生では結実が遅れる
○くこ        挿木にすると活着が早い
○水生植物    苗は太く短いものがよい
○山菽       実生より接木がよい

2 育苗
○夕顔       育苗には鳩・鶏の屎、油粕の混合完熟堆肥の上に盛
           土をして、その上に穴を掘り播種する。日照に弱い
           ので冬期間に深さ二尺、幅三尺の穴を掘り、その中
           に堆肥を施し土を盛り育苗圃とする

3 播種量
○小秬       厚蒔は減収となる
○蕎麦       早生種は薄蒔、晩生種は厚蒔とす 播種量の調整
           で播種期を変えることが出来る

二、肥料に関するもの

1 肥料の種類
○芋類       糠 草類 ごみ
○麦        芋の後作には萩の若葉
○葱        わらび 萩の若葉 速効性肥料
○水蕗山蕗   酒粕 米のとぎ汁
○苧類      馬屎 油粕
○夕顔      育苗には鳩、鶏屎 油粕混合の完熟堆肥
○藍        育苗には魚粕類 本畑には速効性肥料
○牛蒡      糠 萩の若葉 乾燥わらび
○藺        糠以上の良質の肥料
○蕗        酒粕 米のとぎ汁

2 施肥期
○藺        適期を逸しないことが大切
○棉        適期は三月 四―五月の播種は無肥料 播種時に
           元肥として多く施す
○麦        播種時に元肥として多く施す
○古根を植える作物は活着日数に合わせて施肥

3 施肥量
○麦        元肥の施用量で播種の適期が左右される
○水蕗山蕗   耐肥性植物のため多肥栽培が可能
○水生植物   多肥栽培に耐えるが、過度に施すと枯死する

4 施肥方法
○大根      深耕して下層に施す
○茄子・ちしゃ 深く溝を掘り、下層に施肥 その上に定植
      但し一般植物は活着前に施す
○畑の草は田へ 田の草は畑に施す
○追肥の腐熟鳥獣肉や油粕は春は三五日 夏は二五日 秋
      は四○日で分解する

5 肥料の原料草木
○肥料用野草の良否は食味で鑑定する 味のよいものは良質 味は不良でも
                           葉の軟らかいものぱ中位 渋味のあるものは不良
○上質の草   わらび 小萩 おりと ぜんまい たつ(にわとこ) 土たつ 河原杉 よもぎ
          くず葉 青がや かづら類 うつぎ 海藻類 観音草畑の雑草
○特上のもの 桑 柳 雲早草 はぜ えの木 にれ むくげ 桃  藤 豆類の葉
○不良のもの 常緑樹の葉 とくに栗 柿 くぬぎは不適

6 その他
○腐敗した鳥獣の肉 人間の残滓は総て肥料となる

三、病虫害に関するもの

○ささげ     早蒔(適期は三―六月上旬)は油虫と蟻が発生する
          防除には早蒔 晩播を交互に実施する
○胡麻類    えごま、赤えごまの二品種は播種期が早いと害
          虫が発生し易い
○えごま    肥沃地に栽培すると害虫が発生しやすい
○たで      害虫が発生しやすい
○瓜類     うりばえが発生し栽培が困難
○紅花     肥沃地で栽培するとネジ虫が発生する

四、栽培一般に関するもの

○蕎麦     霜害を受けると結実しない
○餅粟     二期作が可能
○ささげ    年三回の播種が可能とされているが実際は二回
          しか作れない
○苧       三年毎に植えかえる 収穫がおくれると繊維が弱
          くなる
○茄子     やせ地に栽培する場合は深く溝を掘り下層に施肥
          して定植する その他の土地では生育し過ぎて枯
          死する 浅植は成績が悪い
○大根、牛蒡 深耕が必要である
○山芋類    木陰や藪陰 畑の周囲でも作土が深い所であれ
          ばよく出来る
○黍類     一作物の大規模栽培は危険であるが、黍類は土地
          を選ばぬので大規模栽培が可能である
○小黍     一本の茎でも部位により熟期が異なるので収穫は     
          三回に分けて行う
○苗代田   翌年の中生種、晩生種の栽培予定地とする

 以上の記述に登場する作物の種類は、野菜類一五種類(大根・茄子・牛蒡・葱・生姜・瓜・ちしゃ・蕗・山蕗・水蕗・小菽・夕顔・山芋・冬苺・水生植物)、特用作物九種類(苧・藍・荏・棉・紅花・えごま・赤えごま・くこ・たで)、穀類四種類、豆類一種類の二九種類になるが、その数は第二節の農作物に較べると野菜類、特用作物ともに約三割に過ぎない。この二九種類の作物は(一)作付面積の多い普遍的な作物か、(二)栽培技術面で改善の余地がある作物、のいずれかであったと思われるが、これらは米麦、豆類に次ぐ生活と密着していた一般的な作物であったと理解することが出来る。その他の雑穀類や野菜類、特用作物類は先に掲げた表I―1の普通畑(一反歩)と野菜畑(五畝歩)で栽培されていたが、作付面積は少なく、肥培管理も粗略な作物であったと考えられる。
 近世の代表的特用作物であった四木(桑・楮・漆・茶)と三草(藍・麻・紅花)は古くから存在していた植物で、中世の農村でも必須の作物であった。『親民鑑月集』は一両具足経営の年間所要労力中で、養蚕に二〇人、製茶に一〇人(ともに雇用労力を除く)を見積もっているので、桑や茶が栽培されていたことは確かであるが、四木の栽培については全くふれていない。米麦を基幹作物としていた水田地帯の農村では、永年植物の四木をはじめとして、その他の特用作物・雑穀・豆類・野菜類などの大半は、野生植物に準ずる作物として肥培管理の対象外に置かれ、「植えて収穫」する程度の極めて粗放的な管理にとどまっていた作物と理解することが出来る。
 栽培技術に関する記述は五一項目を数えるが、肥料に関するものが二六項目で圧倒的に多く、全項目の五割を占めている。『親民鑑月集』は五章の「屎草の事」で草肥に適する原料と、その良否の鑑識法について詳述しているが、このことは、地力に立脚していた中世の農業では、その地力の維持培養のうえで、肥料が最大の要素として重視されていたことを示している。