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愛媛県史 社会経済1 農林水産(昭和61年1月31日発行)

三 施設園芸の発達


 沿 革

 わが国における施設園芸の起源は、静岡県三保で、慶長年間(一五九六~一六一四)保温紙を利用した促成栽培といわれている。その後、東京の砂村、大阪の今宮、京都の聖護院などではじまった。
 これらの促成技術は、明治以降に引き継がれ、とくに、明治二〇年代に洋式のガラスフレーム、ガラス室の導入とともに、これを折哀して、油障子温床、ペーパーハウスを産み、戦後、塩化ビニールの開発に伴い、ビニールハウスが出現し、さらに、各種のプラスチックの被覆材が利用され、急速に施設園芸は発展した。
 本県においても、大正初期には、松山市周辺で温床框利用によるキュウリの半促成栽培がはじまり、昭和に入るとペーパーハウスに発展した。しかし、戦時色が深まり、食糧増産のかけ声とともに、不時栽培物は贅沢品として抑圧され、施設園芸は姿を消した。
 戦後、蔬菜園芸の復興に伴って、二五年ころから油紙によるトンネル早熟栽培、温床框利用、ペーパーハウス によるキュウリの半促成栽培が行われるようになる。そうして、二五年塩化ビニールが農業用として開発され、その特性利用法の研究が進められた。二八年になると、温床障子に油紙に変わってビニールが利用されはじめ、二九年には、ビニールトンネルによる果菜類の早出し栽培が松山周辺、新居浜市などで行われるようになる。さらに三〇年には、松山市東石井で、ビニールハウスが建設され、三一年以降、周桑郡・大洲市・松山市周辺などでハウス栽培が普及した。その後、三〇年代後半から四〇年代になって急速な伸びを示したが、四八年の第一次石油危機では多大の打撃を受け、面積拡大は一時停滞した。
 しかし、食生活の多様化、周年化要求のニーズに対応し、施設園芸の必要性は、ますます増大し、今日では農業所得の向上と生鮮食糧品の安定供給のうえから重要な役割を果たしている。
 一方、輸入農産物の増大、米の生産調整など農業は大きく転換しつつある中で、施設園芸をめぐる諸情勢も、また、燃料費や施設用資材の高騰など厳しい問題をかかえているため、今後の対応には、多くの課題がある。

 施設構造と被覆資材

 戦後の施設園芸は、油紙によるトンネル、ハウス栽培からはじまったが、都市近郊など限られた地帯で、わずかの面積に過ぎなかった。しかし、農業用ビニールが開発されて以降、ビニールトンネル、ビニールハウスによる施設園芸が急速に発展したものである。
 ビニールハウスの構造は、はじめ、間口三・六m程度の小型なものが多くみられたが、その構造を大別すると、二つの型にわけることができた。一つはトンネルを大型化し、移動の容易なものであり、冬から春にかけて果菜類を主体に栽培し、夏期には水稲作を行うというもので、土地利用、連作障害を防ぐという意味では、極めて合理的なものであった。もう一つは、ガラス室を簡易化したもので、移動を考えず固定式で、出来るだけ周年利用を行うようにした。この型では、連作障害が早くから問題になった。
 トンネルを大型化したハウスの骨は、割竹利用の竹幌式からはじまり、三〇年代後期には、ハウス強化のため二m間隔に鉄アングルが取り入れられ、四三年からパイプが主体となった。そうして、間口も三・六mの小型から五・四m、七・二mへと大型化し、経営規模の拡大とともに、ハウスは固定化するようになった。
 一方、ガラス室を簡易化した固定式のハウスは、骨材に木材を使用し、間口三・六mの小型なものからはじまったが、次第に大型化し、三九年には、ラワン材ペンキ塗布で、間口九m以上の大型ハウスが導入された。このハウスは、周桑地域のキュウリに普及し、ついで、四五年以降、雪害対策との関係もあり、鉄アングルと木材の組み合わせ、パイプの肉厚、直径を大きくして強度を高めた大型ハウスへと発展し、五五年以降アルミ材による大型ハウスが見られるようになった。
 また、作業性を高めるため、連棟式も導入されているが、降雪との関係、高知県などに比べ、本県は冬季の日照時間の少ないなどの理由で単棟ハウスが多い。作物によっても、間口が異なり、キュウリでは、間口の広いものが多く、トマト・イチゴでは間口の狭いものが多くみられたが、近年は、これらも次第に間口を広くした大型のものが多くなっている。
 一方、これまでのハウスは、保温、加温を目的としたものであったが、五五年以降、夏季の雨除けにより、生産の安定と品質向上を図る目的の雨除けハウスが急速に伸びている。
 被覆資材は、トンネル栽培では、油紙から、農業用ビニールの開発とともに、ビニールに移行し、二九年ポリエチレンが開発されると、晩まきハクサイなど、霜除け程度の被覆資材として利用されている。
 ハウスでは、農業用ビニールの開発後、ポリエチレン・醋酸ビニールなど各種のプラスチックフィルムが開発され、さらに、硬質ビニールフィルム、硬質ポリエチレンフィルムが開発され、農業用ビニールも防塵性、無滴性などの改良が進められたが、現在も農業ビニールの改良されたものがハウス被覆の主体となっている。一部でガラス室がみられるが、近年減少気味で、五〇年以降に開発された、ポリエステル板、アクリル板など、硬質プラスチック板が取り入れられている。

 装置と栽培技術の改良

 施設園芸は、雨除け栽培を除き、保温、加温によって、早出し、晩出し、および長期に亘って収穫出荷することを目的としている。したがって、当初より保温、加温方法については、細心の注意が払われた。
 ビニールは、日照時の温度上昇効果は高いが、夜間の保温効果は乏しい。そのため、夜間の保温のため、ハウス内で、小トンネルで作物を覆い、さらにコモをかけて保温し、三〇年代後期には、松山地域のキュウリで、定植床に電熱線を入れ、地温上昇を図った。このころ、今治地域のトマト栽培では、プロパンガス燃焼器による加温により、小トンネルのコモ掛を省く方法もとられた。また、作季の繰り上げに伴い、発育初期のトンネル被覆では対応できなくなり、ハウスの二重張り、ハウス内のビニールカーテンによる保温方法がとられた。
 その後、温風暖房機が登場し、本県でも、四〇年代当初から、急速に普及し、ハウス内のトンネル被覆、コモ掛けは行われなくなった。しかし、四八年の第一次石油危機以降、石油価格の上昇に対応して、ハウスの二重張、ハウス内カーテンの充実、温度管理の合理化などによって、省エネルギー対策が進められた。
 一方、昼間の晴天時には、急激にハウス内の気温が上昇する。ビニールハウスは、当初、保温に主体が置かれ、換気不良で、高温障害、多湿による病害が多発した。そのため、ハウスの長さを適正にし両ズマに換気口を設けて換気したが、ハウスの大型化に伴い天窓による天井換気、パイプハウスでは、側壁、肩口換気を行い。大型ハウスでは天井換気と側壁換気が併用されるようになった。
 施設園芸の経営規模の拡大に伴い、省力技術の進歩も著しい。温度管理では、温風暖房機の導入はもとより、換気も手労働から四〇年代には、換気扇による自動換気、天窓の自動開閉、パイプハウスでは簡易な開閉器による側壁換気、ハウス内カーテンの自動開閉も一部で行われている。
 育苗は、二〇年代の温床育苗から三〇年代にはハウス内育苗となり、かん水も四〇年頃からチューブかん水、四五年頃はパイプかん水が普及し、病害虫防除も手動式から動力噴露器、さらに四〇年代後半からは、燻煙剤の併用、耕起・整地の機械化、収穫車の導入など、各種農作業の省力化が進められた。
 つぎに、養液栽培については、三七年以降、れき耕・燻炭耕などが試みられたが、普及するまでには至らなかった。近年水耕が試験的に行われ、六〇年からは、ロックウールを培地とした養液栽培が導入、試作もはじめられている。

 作型と作物の変遷

 トンネル栽培は、二〇年代にトマト・キュウリからはじめられ、三〇年代になるとナス・スイカ・カボチャ、続いてイチゴ・晩まきハクサイ・露地メロンの栽培が行われるようになり、四〇年代には冬出しレタスの凍害防止にもトンネル被覆が行われ、面積の増大とともに、各種の蔬菜についてトンネル栽培が行われているが、現状で主要なものは、レタス・イチゴ・スイカ・カボチャ・キュウリなどである。
 ハウス栽培のはじまったころは、四月から収穫出荷するキュウリの半促成栽培が主体であり、三〇年代後半には、トマトの半促成栽培が盛んになり、プリンスメロン・ナス・ピーマンなどの半促成栽培が行われるようになり、ハウスの利用度を高めるため、半促成、ハウス抑制の年二作型も取り入れられた。この場合、ハウス抑制には、主としてキュウリが導入された。
 四〇年代になりハウスの大型化、温風暖房機の導入などにより、栽培時期が早まり、キュウリでは、一二月から六月、トマトで二月から六月に収穫、出荷する促成、長期栽培が行われるようになった。第一次石油危機後、厳寒期を避けた二作型も見られたが、現状では促成、長期栽培が主体をなしている。
 また、四〇年代には、三〇年代トンネルが主体であったイチゴもハウス栽培が主流になり、当初半促成栽培が主体であったが、四〇年代後半からは、収穫、出荷の早進化が進み、労働配分を考慮して、無冷促成、高冷地育苗、長期株冷、鉢育苗など各種の作型を組み合わせ、一〇月から五月に亘る収穫出荷が行われており、近年ではハウス栽培面積の第一位はイチゴが占めている。
 また、ハウスの有効利用を図るため、各種蔬菜の組み合わせが行われており、ハウス抑制トマトと半促成キュウリ・イチゴを三月で切りあげ、そのあとに、アムスメロン・スイートコーン・ナスを入れるなど、ハウス栽培の疏菜の種類は多様化している。





表6-31 施設園芸の推移と主な蔬菜の種類

表6-31 施設園芸の推移と主な蔬菜の種類