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伊予市誌

第三章 俗信・俚諺・風習

 「夜爪を切ると親の死に目にあえぬ」とか「屋敷内にいちじくを植えると病人が絶えない」とか「ひのえうまの女は夫を殺す」とかいうような言い伝えは、この地方だけではなく県下各地はもとより全国各地にある。
 こうした言い伝えの中には、われわれの先祖から語り継がれた生活の知恵ともいうべきものがあり、また全くの迷信に過ぎないものもある。「夜爪を切るな」とか「出爪を切るな」というのは、おそらく夜のあかりというものは暗く、爪を切りそこねて身を傷つけるようなおそれがあり、また旅に出るまぎわなどに爪を切ると、心あわただしくけがをすることが多い、という経験から戒めたものであろう。「屋敷の中にいちじくの木を植えるな」というのは、いちじくの根が家の基礎をこわすことを言ったものである。
 これ以外に、日本には古くから干支(えと)にこじつけた教えが多い。丙午の年には火災が多いとか、その年に生まれた女は夫を殺すとかいった言い伝えがあるが、これらはあたかも真理のごとく言い広められ、この年に生まれた女の子やその親をどのくらい泣かせたかわからない。世の進むにつれてこのような不合理なものは順次捨て去られ、真理を含むものだけが残っていくのであろうが、古いものはすべて不合理として顧みられなくなる心配もある。ここには、伊予地方でそのように信じられ、生活のなかにながく生きてきたものを、拾いあげて見ることにする。このなかには、既に現在行われなくなっているものもある。