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わがふるさとと愛媛学Ⅱ ~平成6年度 愛媛学セミナー集録~

◇「紙」を意識して見直してみよう

 最初に、少し雑談から入らせていただきます。私は、数年前に新潟からハバロフスクへ飛行機で飛びまして、それからシベリア鉄道に乗って、(本当はモスクワまで行ったら良かったんですけれども)イルクーツクまで、3泊4日、シベリアのタイガと呼ばれる黒い森の中をずっと列車で旅をした経験がございます。イルクーツクというのは、世界一透明度の高い、バイカル湖の近くです。
 車窓の風景を思い出してみますと、朝起きてその辺を見ると森林で、夕方になってもまだ森だったり、ある日は草原を走ると、朝から夜まで草原だという、非常に規模の大きい世界、広大な世界が広がっておりました。
 一見すると、「あそこには、たくさんのパルプ資源があるな。」なんて思うんですけれども、ちょっと調べてみますと、永久凍土の上に乗っかっている森ですから、一度パルプ資源として切ってしまうと、あとがなかなか伸びてこないそうで、100年ももっとかかるんだということでした。また、永久凍土も温暖化によって溶けだしたらいろんな問題を起こしてしまうということもあとでわかりまして、外から見れば豊かな資源かもしれないけれど、中に入ってみるといろんな問題があるということを、数日の旅行を通して感じたわけなんです。
 今ロシアとなりましたけれども、ソ連だった当時のことです。向こうは観光客専用の、ツーリストのホテルなんです。ホテルに着き、フロントでチェックインを終えましても、そこでは鍵をくれません。どうしてかなと思うと、それぞれの部屋のフロアまで行けと言うんです。それで部屋のあるフロアへ行きますと、そこに鍵おばさんがいます。大変太っていて、ゆっくりとして、堂々としている。そこで、鍵が支給される時に、テーブルの上に折って包んである黄色い紙を、鍵おばさんが、「いるか?」と言うんです。最初は「これは何だろうな。」と思ったんですが、何に使うかわからないんです。何人かで行きましたから、そのうちに通じて、それが実はトイレットペーパーだということがわかったんです。トイレットペーパーだけあって、多少色は黄色いんです。
 「いるか?」と聞くから、「当然いります。」と答えると、今度は、「いくらぐらいいるか。」って言うんです。そんなふうに言ったって、トイレに入ってみなければわかりません。ソ連でそんなことを体験したんですが、やはり紙が非常に貴重品で、御承知のように計画経済体制を長い間とってきた国ですから、いろんな事情があろうかと思いますが、その時、紙というものを非常に意識して見直すことを教えられた気がします。
 最初にこんなことをお話ししたのは、日本における「紙」の位置付けというのが、皆さんも紙にかかわってらっしゃると思うんですが、今それほど紙を意識していないのではないかということを申し上げたかったのです。紙屋さんでも、わりと紙を意識していない方が多いと思うんです。全く無意識では御商売ができませんから、そういう意味では意識してらっしゃるんですが、紙を見つめる目、慈しむ目というのは、日常はたぶん持っていない。むしろ、そういう意識をあまり持っていると商売にならないという理屈もあろうかと思います。
 紙というのは、最近供給体制が進んで、需要のほうも旺盛ですから、商品開発も極めて活発に行われています。その結果、便利に、重宝しているわけですけども、そういう状況が進めば進むほど、紙というものを無意識的に扱うことを覚えてしまっている。先程の資源の問題もございましょうし、紙と遊ぶ、あるいは紙を楽しむというアクションもあると思いますけれども、そういう視点で、紙というものをいろいろ見つめなおしてみると、紙の中には大変面白いテーマが潜んでいることがわかります。