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面河村誌

六 山女郎

 大谷集落の近くの山に、山女郎といって、とても美しい女がいた。その女は、こびを含んだ笑みを投げかけてくるのだが、つい、それに合わせて笑い返すと、その男は死んでしまうと言い伝えられていた。
 あるとき、末吉というじいさんが、若者といっしょに山奥で泊まりがけの仕事をしていた。雪のちらつく晩、寝て いると、夜中、どうも人の気配がする。目を覚ますと、いつ入ったのか、妖気をただよわせた美しい女がたたずんでいる。女は、大成集落へ行く途中、道に迷っているうちに、この明かりをみつけてやってきた、泊めてほしいというのである。雪の降る寒い晩のことであり、じいさんは泊めてやることにした。しばらくは、世間話などして楽しく語 り合っていたが、末吉じいさんは、どうもおかしいと思うようになった。話しの途中でもらす、女のあやしいまでの笑みに、これが、あのうわさに聞いた山女郎だと感づいた。じいさんは、石鎚権現に一心に祈りながら、横の若い男がほほえみ返してはたいへんと、とっさにそばにあった棒ぎれで、思いきり若者をなぐりつけた。若者は、それから怒り続け、ついに笑いをもらさなかった。そこで、山女郎もあきらめて煙のように去って行ったという。
 二人は無事に帰れたことを、石鎚権現に感謝し、木造りの刀を奉納したということである。